今日書いていくのは、「ねなしがみ」というもの久保さんの作品集の一つです。もの久保さんは他にも四冊の作品集を出されていて、ねなしがみは一番新しい画集です。「火喰鳥を、喰う」の表紙を描かれた方です。
根梨上村という根のない神が流れ着く村が舞台で、そこにいる様々な神様たちのイラストが載っています。
(帯と最初のイラストより引用)
おどろおどろしくもどこか懐かしい世界観の表紙がこちらです。
先にことわっておきますが、私ホラーは大の苦手です。表紙を見る限りは「絶対怖いじゃん!」と思われると思います。恐ろしさや不穏さは常に漂っていますが、声を大にして言わせてください。
怖いだけじゃないんです!
恐ろしくも引き込まれてしまう、もの久保さん独自の世界観と空気感が深い没入感を与えてくれます。
・妖怪が好き
・和風なものが好き
・暗い雰囲気の絵が好き
という方には確実にささると思います。
・夏の章
・秋の章
・冬の章
・春の章
・根梨上村近隣部
・よその異世界
・目録
・あとがき
の順に収録されています。春ではなくあえて夏から始まるところもより不思議な感じがして良いですよね。著作権などの関係で写真を載せることはできないので、代わりに私が特にお気に入りの絵をいくつか文章で簡単に説明していこうと思います。
目録には各絵の題名が描かれているので、題名とセットにして紹介していきます。
血が出ている
賽の河原の石積みのように石がうずたかく積まれた台所。頭に巾着を巻いた少年が床の上に正座をして、テーブルの奥から出た何本もの手の内、床に落ちて割れた硝子の破片で怪我をして出血している手に包帯を巻いている。この手たちは少年の家族のようにも見えます。
大聖者
袖に白、裾の方に向かって赤い布が垂れた黒いローブを纏った大聖者が、村の中を部下たちとともに歩いている。頭からは角の様に電信柱が何本も突き出て、顔と手の部分には数えきれないくらい沢山の指が密集しています。奥には家々が立ち並んでいるのに、足元には瓦礫が敷き詰められている。栄枯盛衰の対比でしょうか。
近くへ来ようとしている
大きな黒猫が、三本の木の隙間から道を散歩する青年を見つめています。その目はまん丸で、獲物に狙いを定めた猫が飛びついてくる寸前の表情に似ています。青年をおもちゃだとでも思っているのでしょうか。
夜が来ない
ひまわり畑の中にある街。その中心に瓦礫やはしごで作られたやぐらがあります。そのやぐらの頂上に上った少女は、手を伸ばし空に浮かぶ一つの開いた扉の中に広がる三日月が浮かぶ夜を掴もうとしています。落ちたら生きてはいられない高さにもかかわらず、それでも夜を求める。少女がいかに夜に焦がれているかが切に伝わってきます。
金継ぎ
白髪の少年の顔や首には、金色の亀裂のようなものが幾筋も走っています。少年を取り囲むように無数の手が少年に触れようと伸びています。金はこの手たちがぺたぺたと貼り付けたのでしょうか。
どうでしょうか? 作りこまれた不思議な世界観のひとかけらくらいしか説明できていませんが、雰囲気だけでも伝われば幸いです。
私はこれまで画集を買ったことはなかったのですが、大型書店で偶然見つけてパラパラと中を見てすぐに買おうと思いました。一枚一枚の絵の中に閉じ込められた物語が本当に奥深く、何度見返してもその度に新しい発見があり飽きがきません。
カラー印刷のため値段は少し張りますが、私は買って良かったと強く思います。
検索すれば試し読みとして中の絵を見られたりもするので、この記事を読んで気になったり興味がおありの方は店頭やネットで検索をして実際に絵をご覧になってみてください。
また、もの久保さんは別の「MofuMofu」という作品集では巨大な猫などのもふもふを描いていらっしゃるので、そちらを覗いたりしてみてもまた違った面白さに出会えると思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう!
2022.05.02 夜市千景
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