今回書いていくのは、前の記事で話した恒川光太郎さんが書かれた「夜市」についてです。夜市は私が読書に目覚めるきっかけとなった本であり、好きな、またはおすすめの小説は?と聞かれていの一番にあげる一冊です。
画像はネットからお借りしました。私の中で夜市は、中学時代から変わらず面白い小説第一位の座をほしいままにしています。今日は私が小説家になりたいと強く思うきっかけとなった夜市について熱く語ろうと思います。あ、決して出版社の回し者とかではございませんのでご安心ください笑 内容としては夜市との出会い、本編に収録されている「夜市」「風の古道」の力説、の三本立てでいきます。それでは早速いきましょう!
夜市との出会い
私が夜市と出会ったのは、中学一年の頃です。読書慣れしていないくせに小さい子向けの字が大きい小説を読んで頭が痛くなって以降、読書を敬遠していた私は小学六年生になっても絵本を読んでおり母に「あなたもうすぐ中学生になるのに大丈夫なの?」と真剣に心配される始末でした。中学の図書館に絵本はありましたが、それを手に持って図書委員の先輩に貸し出しの手続きをしてもらうのが恥ずかしいと当時の私は思っていました。そう、思春期特有の見栄です笑 なので私は中学への進級を機に必然的に絵本離れをして小説へ転向せざるを得ませんでした。小説に乗り換えて一番最初に読んだのは、「トワイライト」という吸血鬼の青年と人間の女の子の話でした。海外の小説で、映画化もされています。
「夜市じゃないの?!」と思ったそこのあなた。期待を裏切るようで申し訳ありませんが、違うんです。何故かなり長めのシリーズものであるトワイライトを選んだのかというと、姉にオススメされたからです。小説デビューしたてで右も左も分からない私は、人のオススメなら間違いないだろうとそれを借りました。一頁目を開き、羅列された文字に「うわあ……」となりました。読書嫌いの方なら分かるはず。字を見ただけでいやになるあれですね。しかし読み始めればみるみる話にのめり込み、間に挟まれたイラストを励みに読み進める内に小説への抵抗感と苦手意識はすっかりなくなっていました。それからは休み時間になればすぐに机から借りた本を取り出して読み、移動教室の時は制服のポケットに家から持ってきた文庫本を忍ばせ隙あらば読んでいる内に気付けばクラス内で読書好きとして認識されていました。高校では教室と図書館が近かったこともありクラスで一番図書館に通っており、司書の先生ともかなり交流がありました。「読みたいって言ってた本、届いたよ」と連絡が入ればすぐさま図書館へ出向き借りていました。懐かしいなあ……と、話が脱線しましたね。そんな感じですぐに小説が好きになった私は、ある日図書館で次に借りる本をどれにしようか悩んでいました。本棚を眺める中で目に入ってきた少しくすんだ赤色が目立つ、日に焼けた一冊の小説。それが「夜市」でした。同じクラスの男の子が読んでいるのを見かけていたため、何となく面白しそうな予感がしてそれを借りました。
日本ホラー小説大賞受賞
ホラーが苦手な私は、帯に書かれた字にビクビクしながら頁を開きました。そして良い意味で期待を裏切られることになります。ホラーというと一般的に幽霊などの怖いものを想像しますが、夜市は怖いというより怪しく不思議な、ファンタジーに近い話だったんです。ホラーが苦手な私でも読める! と感動したのを今でも覚えています。
さて、次はいよいよ本編について深く熱く語っていきましょう!
夜市
最初の話は、題名にもなっている「夜市」です。漢字の通り、夜の市場が舞台の短編です。しかしここに出てくるのは台湾の夜市のような人々で賑わう場所ではありません。限られた者しか行くことのできない、不定期に開催される妖怪たちの市場です。主人公の裕司は幼い頃弟とともに一度夜市に迷い込んだことがあります。夜市では何か一つ買い物をしなければそこから出ることができません。そしてそこで売っているものはどれもとても高価で、子どもでは到底買うことはできません。では裕司は当時何を買ったのかというと、野球の才能です。ではなにを対価にそれを買ったのか? それは弟です。弟を人さらいへ売るのと引き換えに、野球の才能を手に入れたのです。月日は流れ、弟を取り戻せるだけのお金を貯めた裕司は、同じ大学のイズミとともに再び夜市に赴きます。そして途中で出会った老紳士と一緒に人さらいの店へ行き弟を売ってくれと言うのですが、この後様々な波乱や困難が裕司を待ち受けています。あらすじはこんな感じです。
では次に私が感じた面白さについて書いていこうと思います。夜市を読んで一番驚いたのは、以下の三点です。
・ありそうでなかった世界観
・絵本のような小説
・懐かしさとワクワク
まず一つ目のありそうでなかった世界観についてですね。私はこれまで多くの小説を読んできましが、未だに恒川さんの書く世界観に出会ったことがありません。恒川さんが描く世界観は、現実とフィクションが絶妙に混ぜられています。夜市でいうと神社の先に不思議な市場が開かれていた、といった具合に。絶対にないと言い切れないからこそ、余計に物語の世界に引きずりこまれます。
次に二つ目の絵本のような小説ですね。これはあくまで私の私見なのですが、恒川さんの文体は難しくもなく簡単でもない、淡々と洗練されたものです。読書慣れしていない人でもすらすらと読めることと思います。その文体で描かれる世界観は優しくも恐ろしく、切なさも含んでいて小説というよりは絵本に近い印象を受けました。ありそうでなかったお話に、当時とても衝撃を受けたものです。
最後に懐かしさとワクワクですね。これは夜市全編を通して感じることができます。主人公が小学生の男の子のため、周りの景色の味方などの情景描写が等身大で描かれています。毎日が新鮮で、常に心を震わせていた未知のものへのワクワクとその煌めき。そんな懐かしさと童心を読む度に思い出させてくれます。
では次に、風の古道について触れていきましょう!
風の古道
二つ目の話、風の古道。話の主人公は私とカズキという二人の男子小学生です。話は私が家族と花見へ行った際に偶然迷い込んだ不思議な道について回顧する場面から始まります。結論からいうとその不思議な道が古道と呼ばれる、人間は通常行くことのできない神様たちの通る道だったのです。カズキにその話をすると、「本当にそんな道あるのか? 嘘ついてるんじゃないか」と疑われ、真実だと証明するために二人は古道を探します。ないなないなと探し回りながらある生け垣を通り抜けると、頭痛に見舞われそれまでとは違う景色の道、古道へと辿り着きます。古道へ行くには綻びと呼ばれる、全国のあちこちに不定期に現れ消える入り口を通る必要があります。二人は帰り道を聞くために近くの店へ入り事情を話すと、「君たち人間だろう? どこから来た?」とたいそう驚かれます。話を聞けばかつて花見の日に私が通った出口は花見の時期しか開かず、本来君たちはここへ来てはいけない者だから帰るために協力することは禁じられていると。二人が帰れないという事実に絶望し途方に暮れていると、レンという古道を旅している青年が偶然店を訪れ、帰り道まで案内してもらうことになります。そこから三人での古道の旅が始まるのですが、すんなり帰れましためでたしめでたしとはいきません。道中で様々な問題や出来事に見舞われながら、最後に私が迎える結末は……。と、いうのがあらすじです。
風の古道の面白さとしては以下の三つです。
・古道で出会う色々な異形の者
・三人での旅する日々
・ほのぼのとスリルの緩急
まずは一つ目の古道で出会う色々な異形の者ですね。神々の道といわれているため、道を利用するのは見たこともない様な妖怪や物の怪たちです。道を通るそれらをカズキと二人でこっそり宿の窓から眺めるシーンは読んでいてとてもワクワクしました。
二つ目は三人で旅する日々ですね。古道を旅しながら、二人が入ってきた生け垣のようなところではなく、正式な入り口を探す日々。個人的にレンがすごく好きで、読みながら彼の優しさと面倒見の良さに何度も好感を抱きました。旅をする中でだんだんと距離を縮めていく過程も、ほっこりしました。
三つ目はほのぼのとスリルの緩急ですね。古道を旅する日々は終始ほのぼのしているわけではないんです。レンの旧い知り合いが現れてひと悶着あり、それによって負傷者が出て……と、それを境に物語は緊迫していきます。両者の温度差は良いメリハリとなっており、飽きずに読むことができます。
また、収録されているのは二つとも短編で本の厚さもかなり薄いので、
・読書に慣れていない
・読むのが遅い
という方でも手を出しやすく、読みやすい一冊になっていると思います。
さて、ここまで夜市の魅力を語ってきました。紙の本だけでなく電子書籍も出ているので、気になった方は書店などでお手に取って頂ければと思います。
2022.05.01 夜市千景
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